『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

1973-01-01から1年間の記事一覧

「アンナ・カレーニナ」8-16~8-19(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] 弁証に経験を積んだコズヌイシェフは、それには反駁しないで、いきなり話を別のほうへもっていった。 「そうだね、もしおまえが数学的な方法で、民衆の精神を知ろうというのなら、その目的を達するのは、もちろ…

「アンナ・カレーニナ」8-11~8-15(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] コズヌイシェフがポクローフスコエ村へ到着したときは、レーヴィンにとって最も悩ましい日の一つであった。 それは農村において、最も繁忙をきわめる労働期で、百姓ぜんたいが、他のいかなる生活条件にも示すこ…

「アンナ・カレーニナ」8-06~8-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]六[#「六」は中見出し] いつモスクワを発《た》てるかわからなかったので、コズヌイシェフは義弟のところへ、迎えを出してくれるようにと、電報を打たなかった。カタヴァーソフとコズヌイシェフが、停車場で雇った馬車に乗って、十一時すぎ…

「アンナ・カレーニナ」8-01~8-05(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第八編[#「第八編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] かれこれ二ヵ月たった。もう暑い夏の半ばであったが、コズヌイシェフはやっと今ごろ、モスクワを去るしたくをととのえたばかりである。 コズヌイシェフの生活には、…

「アンナ・カレーニナ」7-26~7-31(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二六[#「二六」は中見出し] これまでついぞ一度も、喧嘩したままで、まる一日をすごしたということはなかった。今日がはじめてである。これこそ完全な恋ざめの、一目瞭然たるあかしである。彼が証明書を取りに入って来たときの一瞥《いちべ…

「アンナ・カレーニナ」7-21~7-25(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] バルトニャンスキイのところで、すばらしい晩餐をごちそうになり、おびただしいコニャクを飲んだあとで、オブロンスキイは指定された時間より少し遅れて、リジヤ・イヴァーノヴナ伯爵夫人のもとを訪れた。 「伯…

「アンナ・カレーニナ」7-16~7-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] 九時すぎ、老公と、コズヌイシェフと、オブロンスキイは、レーヴィンの部屋に坐って、産婦のことをちょっと話した後、よもやまの物語に移った。レーヴィンはそれを聞きながら、いつともなく過去のこと、今朝まで…

「アンナ・カレーニナ」7-11~7-15(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し]『なんという驚嘆すべき女だろう、美しくて優しい、しかも気の毒な女だ』オブロンスキイといっしょに、凍った外気の中へ出ながら、彼はこう思った。 「え、どうだ? 僕がそういったろう?」レーヴィンが完全に征…

「アンナ・カレーニナ」7-06~7-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]六[#「六」は中見出し]「もしかしたら、会っていただけないかもしれないね?」とレーヴィンは、ボール伯爵家の玄関へ入りながらきいた。 「お会いになります、どうぞお入り下さいまし」と玄関番が、勢いよく彼の外套を脱がせながらいった。…

「アンナ・カレーニナ」7-01~7-05(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第七編[#「第七編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] レーヴィンはもう足掛け三ヵ月モスクワで暮していた。この方面のことに詳しい人たちの、正確無比な計算で予定されていたキチイの分娩の時期は、とっくにすぎてしま…

「アンナ・カレーニナ」6-26~6-32(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二六[#「二六」は中見出し] 九月に、レーヴィンはキチイのお産のため、モスクワへ移った。彼はもうまる一月、なんにもしないでモスクワに暮した。そのとき、カーシン県に領地をもっていて、近く迫った選挙に非常な関心を有しているコズヌイ…

「アンナ・カレーニナ」6-21~6-25(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し]「いや、公爵夫人はお疲れになったらしいから、馬などには興味がおありになるまいと思うね」スヴィヤージュスキイが新しい牡馬を見たいといいだしたので、養馬場まで行こうと誘ったアンナにむかって、ヴロンスキ…

「アンナ・カレーニナ」6-16~6-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] ドリイは自分の思いつきを実行して、アンナのもとへ出向いた。彼女としては、妹につらい思いをさせ、その良人に不快な感じを与えるのは、はなはだ不本意なことであった。ヴロンスキイといっさい交渉をもちたくな…

「アンナ・カレーニナ」6-11~6-15(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] レーヴィンとオブロンスキイが、いつもレーヴィンの泊まりつけにしている百姓家へ着いたとき、ヴェスローフスキイはもうちゃんとそこにいた。彼は部屋のまんなかに腰かけて、両手を床几につっぱりながら、主婦《…

「アンナ・カレーニナ」6-06~6-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]六[#「六」は中見出し] 子供のお茶のあいだ、大人たちはバルコンに腰かけて、何ごともなかったようなふりをして、世間話をしていた。そのくせ一同は、ことにコズヌイシェフとヴァーレンカは、否定的なものではあるけれど、きわめて重大な事…

「アンナ・カレーニナ」6-01~6-05(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第六編[#「第六編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] ドリイは子供たちをつれて、妹のキチイ・レーヴィナの領地、ポクローフスコエでひと夏をすごすことになった。彼女自身の領地では、邸がすっかり崩れてしまったので…

「アンナ・カレーニナ」5-26~5-33(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二六[#「二六」は中見出し]「え、どうだった、カピトーヌイチ?」誕生日の前の散歩から帰ってきて、高い背のてっぺんから少年を見おろして、にこにこしている年とった玄関番に、襞《ひだ》の入った袖なし外套を渡しながら、楽しげに頬を赤…

「アンナ・カレーニナ」5-21~5-25(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] カレーニンは、ベッチイやオブロンスキイとの話から、人が自分から求めているのは、妻を解放して、自分の存在で彼女を悩ませないようにすることであり、また妻自身もそれを望んでいることを知って以来、すっかり…

「アンナ・カレーニナ」5-16~5-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] レーヴィンが二階へあがったとき、妻は新しい銀のサモワールのそばに、新しい紅茶セットを前にして坐っていた。そして、アガーフィヤを小さなテーブルの前に坐らせ、紅茶さえ注いでやっていた。彼女は、互にたえ…

「アンナ・カレーニナ」5-11~5-15(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] アトリエの中へ入ると、画家のミハイロフはもう一度客を見まわして、さらにヴロンスキイの顔、ことにその頬骨の表情を、自分の想像の中へとり入れた。彼の芸術家的感情はたえまなく働いて、素材を蒐集していたに…

「アンナ・カレーニナ」5-06~5-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]六[#「六」は中見出し] 結婚の儀式が終り、番僧は会堂のまんなかにあたる聖書台の前に、バラ色の小さい絹のきれを敷いたとき、コーラスは技巧をこらした複雑な賛美歌をうたいはじめた。それは、バスとテノールが、互に交錯する仕組みになっ…

「アンナ・カレーニナ」5-01~5-05(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第五編[#「第五編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] シチェルバーツカヤ公爵夫人は、もうあと五週間しかない大斎期《だいさいき》までに、結婚式を挙げるのは不可能と見なした。というのは、したくの半分もそれまでに…

「アンナ・カレーニナ」4-21~4-23(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] ベッチイが広間を出るか出ないかに、新しい牡蠣《かき》の入ったエリセエフの店へ行って、そこからやってきたばかりのオブロンスキイに、戸口でぱったり出会った。 「ああ! 公爵夫人! これはいいところでお目…

「アンナ・カレーニナ」4-16~4-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] 公爵夫人は無言のまま微笑しながら、肘椅子に腰をかけていた。老公はそのそばへ腰をおろした。キチイはいつまでも父の手を放さないで、その椅子のかたわらに立っていた。みんな黙っていた。 やがて公爵夫人が第…

「アンナ・カレーニナ」4-11~4-15(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] 一座のものはだれもみな、この会話に仲間入りしていたが、キチイとレーヴィンだけは別であった。はじめ、一つの国民の他国民に対する影響力という問題が出たとき、レーヴィンはこの問題について、いうべき意見を…

「アンナ・カレーニナ」4-06~4-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]六[#「六」は中見出し] カレーニンは八月十七日の委員会で、はなばなしい勝利を博したが、その勝利の結果が彼を裏切った。異民族の生態をあらゆる点において研究すべき新しい委員会は、カレーニンの督促によって、目ざましい早さと意気ぐみ…

「アンナ・カレーニナ」4-01~4-05(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第四編[#「第四編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] カレーニン夫婦は、ひきつづき一つ家に暮して、毎日顔をあわせていたけれど、お互に全くの他人同士であった。カレーニンは、召使に揣摩臆測《しまおくそく》の権利…

「アンナ・カレーニナ」3-31~3-32(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]三一[#「三一」は中見出し] 階段を半分ほど駆けおりたとき、彼は控室でなじみのある咳の声がするのを聞きつけた。しかし、自分の足音にまぎれて、はっきりとは聞えなかったので、まちがいであってくれればとねがった。が、つづいてなじみの…

「アンナ・カレーニナ」3-26~3-30(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二六[#「二六」は中見出し] スヴィヤージュスキイは、自分の郡の貴族団長をしていた。彼はレーヴィンより五つ年上で、ずっと前に結婚していた。彼の家には細君の妹で、レーヴィンの好ましく思っている若い娘がいた。そして、スヴィヤージュ…

「アンナ・カレーニナ」3-21~3-25(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し]「僕は君を迎えに来たんだよ。今日は洗濯がばかに長かったじゃないか」とペトリーツキイがいった。「どうだい、もうすんだかい?」 「すんだよ」とヴロンスキイは、目だけで笑いながらそう答えて、口髭の先を用心…