『アンナ・カレーニナ』第七編
[#5字下げ]二六[#「二六」は中見出し] これまでついぞ一度も、喧嘩したままで、まる一日をすごしたということはなかった。今日がはじめてである。これこそ完全な恋ざめの、一目瞭然たるあかしである。彼が証明書を取りに入って来たときの一瞥《いちべ…
[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] バルトニャンスキイのところで、すばらしい晩餐をごちそうになり、おびただしいコニャクを飲んだあとで、オブロンスキイは指定された時間より少し遅れて、リジヤ・イヴァーノヴナ伯爵夫人のもとを訪れた。 「伯…
[#5字下げ]一六[#「一六」は中見出し] 九時すぎ、老公と、コズヌイシェフと、オブロンスキイは、レーヴィンの部屋に坐って、産婦のことをちょっと話した後、よもやまの物語に移った。レーヴィンはそれを聞きながら、いつともなく過去のこと、今朝まで…
[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し]『なんという驚嘆すべき女だろう、美しくて優しい、しかも気の毒な女だ』オブロンスキイといっしょに、凍った外気の中へ出ながら、彼はこう思った。 「え、どうだ? 僕がそういったろう?」レーヴィンが完全に征…
[#5字下げ]六[#「六」は中見出し]「もしかしたら、会っていただけないかもしれないね?」とレーヴィンは、ボール伯爵家の玄関へ入りながらきいた。 「お会いになります、どうぞお入り下さいまし」と玄関番が、勢いよく彼の外套を脱がせながらいった。…
[#2字下げ]第七編[#「第七編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] レーヴィンはもう足掛け三ヵ月モスクワで暮していた。この方面のことに詳しい人たちの、正確無比な計算で予定されていたキチイの分娩の時期は、とっくにすぎてしま…