『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

「新編濱口國雄詩集 (新・日本現代詩文庫)」(2010年、濱口國雄、土曜美術社出版販売)

「濱口國雄の詩」 http://www.youtube.com/watch?v=_pD4fO7mctU
「〈朝鮮と日本の詩人-48-〉 浜口国雄」 http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2008/06/0806j0204-00006.htm

「むくげの花」

花びらの芯から呻きがきこえてくる。/血を流しているむくげの花よ。/花を愛したことで人は殺害された。/花を植えたことで人は投獄された。/引裂かれたむくげの花。/朝鮮よ。

 花。/むくげの花よ。/受難の年月 愛を深めて咲いた花。/笞に耐え胸の深部で白い花びら開いた花。/胸から胸へ咲きつがれ咲いた花。/朝鮮よ。

 うばわれ焼きはらわれたむくげの花。/傷つけ踏みつけられたむくげの花。/哀号の声に涙かみしめ咲いたむくげの花。/白い花びらむくげの花。/清純な朝鮮の国花 むくげの花よ。

 むくげの花。/朝鮮。/むくげの花を愛することが、祖国への愛の表現だった。/むくげの花をささげることが、男女の愛の証だった。/むくげの花を咲かすことが反抗だった。/むくげの花を送ることが反抗の連帯だった。/むくげの花を受けとることが連帯の証だった。/むくげの苗を育てることが、たたかう朝鮮人の義務だった朝鮮

 むくげの花。/受難の年月血をながし咲きつづけた花。/呻いていた朝鮮。/たたかう愛を統一したむくげの花。/花の芯で人々をはげまし、香りをはなっていた朝鮮。/白い清純なむくげの花よ。/朝鮮よ。



「ヤカチ三態」
地獄ヤカチ
 こいつらは野斃ヤカチを生き延びたやつら。
 そこでは死人の紙へいを集めて数えるやつ。
 蛇に頭から噛みつくやつ。
 靴の革をやわらげ喰うやつ。
 人肉を飯盒一杯五百円で売りつけるやつ。
 こいつらは、
 米も塩もなく生き、野獣の生活に耐えられるやつ。
 他人まで殺して生きようとするやつ。
 絶対に勝つと信じているやつらは、
 転進作戦の本質を知らないやつら。


※「野斃ヤカチ・地獄ヤカチ・極楽ヤカチ」の3部からなる

 

「地獄の話」



火が燃え 仲間の笑い声が 念仏のつまった 俺
の胸ではねかえった――。
飯盒に八杯あったな〉
〈脂がないな〉
肝臓が一番うまいな〉
〈これで一週間は生きられるぞ〉
仲間は 眠られぬ俺を残して眠りついた。
俺は水煮の肉をかじりながら 胃袋から突きあげ
てくる 人間の臭いに 戦慄した。

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13

  〈一、軍人は忠節を尽くすを本分とすべし〉

俺の眼球で 殺意を充満した地獄の鬼が 口大な
囗を開き 俺の喉笛に鋭く迫って来た。


※13段落からなるうちの、9段落目と13段落目。あえて全体の構成がわからないように引用した。全体を知りたい方は、底本を読んでほしい。また、お気づきかもしれないが「ヤカチ三態」と同じ部分が「地獄の話」には含まれている。

 

「沼の中」

沼の中から 助けを求めていたのは 花田一等兵だっ
た。
あがきの指を虚空に残し 沼に沈んでいった 花田一
等兵の死を確認したのは 沼の淵に、餓死寸前の身を横
たえていた 僕であった。

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明日は 八月十五日である。
腐燗し蛆に喰われた 花田一等兵に 勲八等旭日章が叙
勲され 上等兵に昇進した花田上等兵が 明日の敗戦記
念日を、パプア島ヤカチの、沼の中で迎えるのだ。


※8段落からなるうちの4段落目と6段落目。

 

「犯罪人」

まよなか
さんぱちほへい銃が があん となる

つつさきから
火えんがはじけ やみがさける。

やけただれた 闇のなか
死者がたちあがる。

きいろい傷口から ひたひた血たらし たちあがりさけぶのだ。

〈お前がわかしを殺したのだ〉
〈お前の胸のわかしを わたしの中国へ帰して下さい〉

さんぱちほへい銃が があん となる。
わたしの さんぱちほへい銃が があん となる。
わたしの胸のくらやみで
りくぐん伍長が ふるえている。

 

「勲章」

おばあさんは、僕の手をさすり 泣くのである。
八十歳の やせた指の 骨の先から、おばあさんの鳴咽が、僕の心臓に流れこむのである。

今日は命日である。
花田一等兵の命日である。
暗い仏壇の中 軍服姿の花田一等兵が、ロウソクの光に浮き出され 笑っている。

花田一等兵の死亡を確認したのは僕である。
太陽に死体さらし、野倒死していたのである。
腹、紫に膨張させ、目、鼻、耳、肛門に蛆わかし、
腐敗していったのである。

花田一等兵が 息絶え二十年になるが、今日もパプア島ヤカチの地にむくろ晒し、風化続けているのである。
勲八等旭日章 おばあさんの手に残し 燐光燃やし、風化続けているのである。

おばあさんは泣くのである。
仏壇に飾った 勲八等旭日章 畳にたたきっけ、
僕の手強くさすり
泣くのである。
声あげ 泣くのである。



「東洋鬼Ⅰ」

虚をつかれた兵士は、構えをもとに戻そうとした
が、少女は銃剣を離さなかった。けしの花が風も
ないのに激しくゆれていた。上官の罵倒と同僚の
失笑に、あわてふためいた兵士は、理性なぞ忘れ、
吸血鬼へと逆流していった。
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「東洋鬼Ⅱ」

○○○○○○○○○○○○○○○
おびえた少女の眼球で
銃の菊花紋章が焼きつき
○○○○○
○○○○○
○○○○○○○○○○

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「東洋鬼Ⅲ」

李三竜は
恐れ気《げ》もなく 胸を広げた

広げた胸に
銃剣つきさした。



※「東洋鬼Ⅰ」:6段落あるうちの3段落目。「東洋鬼Ⅱ」:6行しかない詩の2~3行目。「東洋鬼Ⅲ」:4段落あるうちの1段落目と2段落目。ここでは、わざとこの3つの詩の全体がわからないように引用した。

 

 

 

※本記事は「s3731127306の資料室」2015年01月17日作成記事を転載したものです。