『スチェパンチコヴォ村とその住人』
手もとに捧げた。叔父とナスチャはまた膝をついた。こうして、式はペレペリーツィナのうやうやしげな指導のもとに、とどこおりなく行なわれた。彼女は、『もっと足をおかがめなさい、聖像に口をおつけなさい、お母様の手に接吻なさい!』などとのべついいつ…
うとしているんだ。一生台なしにしようと思っているんだ。あのひとに穢らわしい悪名をきせて、家を追い出す口実を求めているんだ。ところが、今その口実が見つかったんだよ! なにしろ、あのひとがわたしと醜関係があるなんて、みんなでいいふらしているんだ…
も、心配ごとがあり余るんですから!」と彼女は哀願するような声でいったが、その美しい唇には軽い嘲笑の翳《かげ》がひらめいた。 「ああ! どうかぼくを馬鹿扱いにしないでください!」とわたしは熱くなって叫んだ。「あなたはぼくに対し、先入見を持って…
とに、こういう申し出をなし得る者は、おそらく叔父一人だろうと合点した。それと同時に、叔父の一言で取るものも取りあえずここまで駆けつけ、彼の申し出に夢中になったわたし自身も、大分ばかくさいものだということがわかって来た。わたしは不安な疑惑に…
スチェパンチコヴォ村とその住人 ――無名氏の手記より フョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)方舟《はこぶね》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)|あかんべ《…