『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

『シュン@ひろしまタイムライン』の1945年8月6日のツイート(作業いったん終わり)

「もし75年前にSNSがあったら?」1945年、広島の中学1年生だった新井俊一郎さんの日記原文(1945年8月1~7日) | 被爆75年ブログ|NHKブログ

 

【1945年8月6日】

寝坊だ!

【1945年8月6日】

始発を逃してしまった。せっかくの帰省なのに!
西川が「どうせ今日中には家に帰れるんじゃ。」と言う。確かに。
八時過ぎの汽車に乗れるよう準備することにした。


【1945年8月6日】

大豆と芋の弁当はリュックサックに詰めた。母校留守部隊への連絡文書もしっかり預かった。
いざ廣島へ!帰省の時だ!


【1945年8月6日】

小川で休憩していると、B29が僕らを追い越すように飛んでいった。
朝早うからたったの一機で、アメちゃんもご苦労なの。


【1945年8月6日】

教官より預かった連絡文書のおかげで難なく切符が手に入った。
汽車は8時を少し過ぎた頃に来る。

【1945年8月6日】

まだかな?汽車が来ない。

【1945年8月6日】

えっ

【1945年8月6日】

なんだ?

【1945年8月6日】

何があった?

【1945年8月6日】

なんだあの雲?煙?
事故?
誰かが噴火か?と言う
空襲?

【1945年8月6日】

あれは廣島か?
家、学校、父ちゃん母ちゃん


【1945年8月6日】

大変だ
大ごとだ
とんでもない


【1945年8月6日】

煙が渦を巻いている
煙がどんどん大きくなっていく、どこまで大きくなるのか?
どうなっている?

【1945年8月6日】

落下傘だ。白いのが流れている 爆弾か?あれが?

【1945年8月6日】

「汽車は来るんじゃろうか?」「行かねばならぬ」
皆、言い合っている


【1945年8月6日】

汽車が来た。まずは乗る。ともかく、行こう。

【1945年8月6日】

汽車はのろのろと走る。もどかしい
窓の外、 湧き上がっている 巨大な雲。
猛烈な勢い

【1945年8月6日】

しかし、あれはなんだったんだ?
山の向こう側から、空がどんどん、だいだい色に、いや桃色に変わっていった
なんだったんだあれは

【1945年8月6日】

とてつもなく眩しかった
ズーンという凄い衝撃、ホームの全員が眼と耳を守って伏せた


【1945年8月6日】

海田市の火薬庫がやられたらしい。とうとう廣島がやられた!

【1945年8月6日】

のろのろ、汽車、遅い
まだ瀬野にも着かない
なかなか進まない

【1945年8月6日】

汽車、進まない
廣島の上空を吹き上げる炎と雲が覆っている。薄汚れた入道雲


【1945年8月6日】

汽車止まった、動かない

【1945年8月6日】

瀬野駅の駅員が「列車は運行見合わせ!これ以上先には行けません!」と。
ここから廣島までは十五粁あるらしい。
どうしたものか……

【1945年8月6日】

手紙を届けるという命令がある
とにかく向かおう、廣島まで

【1945年8月6日】

どこかの家のラジオの声がする
「こちら廣島、こちら廣島廣島は全滅、救援を乞う…大阪さん大阪さん、 聞こえたら呼んでください」


【1945年8月6日】

全滅

廣島が?


【1945年8月6日】

父母は?


【1945年8月6日】

ラジオは何度も何度も救援を乞うていた

みんな、誰も、何も喋らない

【1945年8月6日】

廣島は全滅、皆と顔を見合わせた
「行こう、廣島へ」
「学校に文書も届けんと」
「歩くんじゃ、ここから」
同じように廣島方面へ向かう人もいる
みんな覚悟を決めた


【1945年8月6日】

黒煙が立ち昇り、何かがキラキラと光っている。入道雲がどんどん大きくなってゆく…


【1945年8月6日】

廣島からの汽車とすれ違った
窓ガラスが全部割れている!

【1945年8月6日】

じっとりと汗がまとわりつく。
安芸中野あたりまで来たが…
何かがおかしい。

家の屋根がめくれ上がったり壁に穴が空いたりしている。

【1945年8月6日】

なんだ…何か来る、松並木の向こう

【1945年8月6日】

何かの…集団?

人?

【1945年8月6日】

あ………そんな

【1945年8月6日】

顔が崩れている…目も鼻も崩れている
人、じゃない、あんなふうにはならない
人の形をしているが…

【1945年8月6日】

あかむけ…どす黒い…赤…黒色をした人たち

一様に両腕を突き出して、手から汚いボロ布を垂らしている
皮…なんなんだ、あれ…皮膚か


【1945年8月6日】

ゆっくりと倒れ伏す、ひとり、またひとり、倒れていく

動かない、うごかない

次々
ゆっくり、道を埋め尽くしていく…どうしたら…


【1945年8月6日】

ああ…なんで、どうして

どうしたんです、廣島で何があったんです

聞きたいが聞けない。怖い。聞けない。

ああ。こんな中を僕たちだけが、無傷で行くのか

【1945年8月6日】

「はよせえ、この間にも何千人も死んどるんじゃ!」
全壊している窓の病院の前、老医師が怒鳴っている

向洋の家々は半壊している


【1945年8月6日】

民家の門前にムスビが並び、包帯をした住民が避難民を介抱している

ここで、水を飲ませてもらって、昼飯を食う。しかし腹は減っているが、泥を噛んでいるようだ


【1945年8月6日】

比治山の向こう、家の方角がひどく燃えている

父母よ、どうか無事であってくれ


【1945年8月6日】

市内から逃げようという怪我人で橋は溢れかえっている
あれが東大橋か?

火傷で男から女かも年も分からない。


【1945年8月6日】

あの中をどうにかして通らなければ。
通れるか?
いや、行くしかない

【1945年8月6日】

橋の途中、憲兵隊が立ちはだかっている
自転車の男と怒鳴り合っている


【1945年8月6日】

廣島は非常事態が発令されている。軍の機密地帯だ、誰であろうと通すわけにはいかん!」
「この事態は異常だ、なんとしても報道せねばならん!」
新聞記者か?

【1945年8月6日】

「横暴だ。この惨状を国民の目から隠そうというのか」
「馬鹿野郎ッ!」
記者が憲兵に自転車ごと川に投げ込まれた!
橋の上から

【1945年8月6日】

どうしたらいい

憲兵たちがすごい形相で向かってくる

【1945年8月6日】

「キサマたち、廣島には入れぬ。帰るんだ、わかったか!」
憲兵はいくら説明しても全く聞く耳を持たない
「こんな時に中学生が何をウロウロしている。どこの学校だ!」
くそっ!子供だと思っているんだろう!

【1945年8月6日】

公文書を見せたらどうだ……?
高田君が言ってくれて気がついた、僕らは連絡文書を預かっている!

これで駄目ならもう駄目だ

【1945年8月6日】

「西部軍司令部気付」という宛名を見た途端、憲兵の顔色が変わった

「よし、許可する。しかし千田町まで行けるかどうか、 気を付けて行け」

【1945年8月6日】

記者を川に投げ込んでおいて、わかったかと怒鳴っておいて、気をつけろとはなんだ
憲兵とはなんだ、何たる手のひら返しだ


【1945年8月6日】

姉妹だろうか?

大火傷でひどく大きく膨れて、目と口のみがかすかにへこんだ顔
小さな手を握り合わせて、よろよろと歩いていた

【1945年8月6日】

右隣を通り過ぎるとき、僕の胸くらいの背丈しかない上の子が

「しっかりねっ、しっかりねっ」
と妹を励ましているように、僕には思えた

【1945年8月6日】

人の群れに溶けるように、静かに消えていった

あの姉妹はきっと生き延びられない、だろう
それでもなんとか、なんとか生きてほしい

【1945年8月6日】

ここが段原?
民家の屋根が吹き飛んでいる

【1945年8月6日】

高田君と笠間君、西川君と相談
安全な道はどこだ、大正橋か?


【1945年8月6日】

血まみれの人 潰れた家 助けを求める声が、色んな所からする
「助けて」と
父母よ。どうか。どうか無事であってくれ


【1945年8月6日】

街が

これが廣島か……?

【1945年8月6日】

我が家はもはや灰と化しているだろうか。
父は?母は?

【1945年8月6日】

大正橋の交番
一本焼け残った電信柱に松明のように火がついている

【1945年8月6日】

千田町の方角には巨大なつむじ風のような火の柱が上がっている。
学校は?
あれでは連絡文書を届けるのは到底無理だ

【1945年8月6日】

「それぞれ安全な道を通って帰ろう」
「仕方がない、各自これから先は別行動に移ろう」
ここで、西川亮君、永谷君の母親と別れる


【1945年8月6日】

比治山橋。三人とはここで別れる。

一人になった。

【1945年8月6日】

防火用水槽から…無数の足が生えている…びっしり…人が頭から突っ込んでいる

【1945年8月6日】

瓦礫じゃなかった…焼け焦げた人だ…馬だ…一面、すべて


【1945年8月6日】

比治山の裏には火はきてない。家は無事だろうか
父母は?
今日見てきたあの人達のようになっていたらどうしよう
いや、僕がしっかりしなければ!


【1945年8月6日】

見えてきた。あの角だ。めちゃめちゃになっているが、確かにこの道だ

【1945年8月6日】

僕の家…半壊している。
父母がいるはずだ。

どうか、どうか無事でいてくれ

【1945年8月6日】

生きている!!

【1945年8月6日】

生きていた。父ちゃんはガラスの破片で血だるまになり、母ちゃんは顔面を大きく腫らしている
でも二人とも、生きていた。
僕が来たことに飛び上がって驚いていた。

ああ、よかった。本当に…

【1945年8月6日】

家は、玄関の間と居間だけがかろうじて残っているものの、屋根は抜け落ち、ガラスが散乱。手のつけようがない
家の前の消火栓が壊れて水が吹き出している。いや、水があるだけでも幸いか。

今夜は寝る場所がない。野宿か

【1945年8月6日】

今日のはすべて、米軍がガソリンを撒いて火をつけたためらしい。
また来るという話もある。

ならば防空壕が必要だ。だが僕が作ったのでは全く役に立たない

【1945年8月6日】

今夜は近くの松田君宅の防空壕で寝させてもらえるらしい。
ありがたい。

【1945年8月6日】

ああ、これからどうなるんだろうか…


【1945年8月6日】

共に廣島まで来たみんなはどうしているだろう
笠間君は旭町、高田君は鉄砲町、西川亮君は牛田、西川廉行君は五日市。
みんなの家族は無事だったろうか


【1945年8月6日】

東大橋ですれ違った姉妹がよぎる
つなぎ合わせた小さい手が、頭から離れない。
姉は確かに妹に言っていた「しっかりね、しっかりね」と。