これはわたしの交友関係が薄いからだけかもしれないが、わたしが反歴史修正主義運動に参加している中で、「あの小説はここがいい」という話はあまり出なかった。私の印象では、勧められた(「推された」?)本数の順番は、映画と歴史書が一番多くて、漫画が二番目、小説は三番目ぐらいだったろうか。いや、反論する人がたくさんいるだろうということは簡単に予想できる。
しかし、検索しても、『カラマーゾフの兄弟』や『失われた時を求めて』の読書記事とくらべて、『神聖喜劇』の読書記事はどう考えてもすくない。これは「反日イデオロギー」(下劣な単語だが)の問題もあるだろうが、小説を読みたいというエネルギーが一般人に(ほぼ確実に)失われつつあることとも確実に関係している。
つけくわえておくが、漫画版『神聖喜劇』ですら、納得できるほどよい読書記事って検索してもなかなか出てこない。あの漫画版は一時期うんざりするほど出た漫画化本のほとんどを圧倒するほどよい作品だったのだが。
なんでこういうグチを書くかと言うと、映画『この世界の片隅に』(こうの史代、片渕須直監督)がヒットしたときに、「これまでのイデオロギーまみれの作品とはちがういい作品だ!」というくだらない感想が次々書かれたことを、ごく最近思い出して、思い出し激怒したことである。なんでこんなことを思い出したか、たぶん『城壁』『無限後退』(小島信夫)を読んだことがきっかけだろう。