『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

「“記憶”と生きる: 元「慰安婦」姜徳景の生涯」(2015年、土井敏邦、大月書店)

○目次

バー表・写真=姜徳景(C Ahn Sehong)
バー裏・画=姜徳景《ラバウル慰安所》64×47、紙の上にアクリル、1995年作

扉のカラー写真
《故郷―晋州南江》
《私たちのいた慰安婦
《梨をとる日本軍》《悪夢》
《奪われた純潔》
5点ともすべて姜徳景の絵

はじめに (011)

第1章 ナヌムの家  (019)
死の床(019)/姜徳景との出会い(024)/撮影開始(028)/ナヌムの家のハルモニたち(033)/ナヌムの家の日常生活(038)

第2章 女子挺身隊  (043)
少女時代(043)/「女子挺身隊」の痕跡(046)/寄宿舎生活(054)

第3章 「慰安所生活  (057)
強姦(057)/「慰安所」(059)/再訪(064)/解放と妊娠(068)/出産(071)

第4章 悔恨  (075)
帰郷(075)/子どもの死(078)/屈折した加害者への心情(086)/「コバヤシ」捜し(094)

第5章 求婚の拒絶  (097)
弟・姜炳熈(097)/求婚を拒む秘密(100)/自殺未遂(109)/米軍基地での仕事(110)

第6章 同棲  (115)
ソウル上京(115)/隠された同棲生活(116)/愛人の死と堕落(122)/封印されたもう一つの「同棲生活」(124)

第7章 告白  (129)
荒んだ農園生活(129)/初めての告白(136)/元「慰安婦」としての申告(140)

第8章 金順徳  (147)
金順徳の「慰安婦生活(147)/〝申告〟の逡巡(153)/自尊心(156)

第9章 「償い金」  (159)
ナヌムの家の不協和音(159)/「慰安婦」問題のシンボル(163)

第10章 伝達と表現  (171)
ドキュメンタリー映画『低い声』(171)/絵画で訴える元「慰安婦」(182)

第11章 最期  (197)
肺がん末期の宣告(197)/ナヌムの家再訪(200)/最後のたたかい(208)

あとがき  (213)



写真一覧(《》くくりのものは元「慰安婦」たちの描いた絵画

039 [上]ソウル市内の恵化洞にあったナヌムの家(1995年1月)  [した]ナヌムの家のハルモニたち(1994年12月) 前列左から孫判任、通訳・朴鍾培、姜徳景、朴玉蓮(後列左から)李英淑、金順徳、李容女、朴頭理
044 姜徳景の故郷、晋州市(1998年5月)
049 姜徳景の学籍簿
053 [上]姜徳景の出身校、現・晋州中安初等学校(1998年3月)
[下]不二越工場の正門前(1998年6月)
074 姜徳景が出産した菊水旅館跡(1998年5月)
079 [上]釜山市市街(1998年3月) [下]姜徳景が働いていた平和食堂跡(1998年3月)
082 孤児たちの集合写真(安達遠提供)
101 姜徳景の弟、炳熈
106 若いころの姜徳景(住民登録証より)
131 [上]農園のビニールハウス群(1995年6月) [下]姜徳景の住処だったポンプ小屋(1995年6月)
148 金順徳(1996年8月)
152 金順徳《あの時あの場所で》
165 日本大使館前での水曜集会(1996年8月)
174 朴玉蓮に話しかけるビョン・ヨンジュ(1994年12月)
186 絵を描く姜徳景(1995年1月)←手にもっているのは《故郷―晋州南江》
193 《責任者を処罰せよ―平和のために》
194 《意地悪な私の先生》
195 《無題》
198 京畿道広州に移転したナヌムの家(1996年3月)
202 呆然と坐る姜徳景(1996年6月)
206 酸素マスクをした姜徳景(1997年1月)
212 金順徳、姜徳景の碑の前で(1998年5月)


奥付 [2015年04月20日 第1刷発行 著者・土井敏邦 発行所・大月書店
装丁 桂川
写真 安世鴻(カバー、表紙)






○概要
[姜徳景氏の年表]


○引用

李容女(イ・ヨンニョ)「腹が立ってもうたまらないよ。待っていて年を越しまた待っていて……。こうやって共同生活するのもみんな性格も違うから我慢するのも苦労だよ。これって何だよ、申告してもう4年になるのに。なぜ早く解決してくれないの。日本は大金持ちなのに。過ちを犯したら早く賠償するべきじゃないの」

姜徳景(カン・ドクキョン)「お金を出すのが嫌だというわけではないのよ。彼らは過去の事を歴史に残さないようにするためだよ。(名誉を傷つけず)きれいな国民でいたいわけさ」

金順徳(キム・スンドク)「自国に傷を残さないためにありったけの力を振り絞っているんだよ」

李「バカバカしい早く解決して、忘れた方がいいよ」

金「だからお金で『慰労金だ 慰労金だ』と言ってごまかすのよ。お金で解決したいけど自分の過去を傷つけたくないんだよ」

姜「『謝罪しろ』『真相究明しろ』それをしないじゃない。私たちがお金さえもらえば済むのならとっくに解決しているよ」

金「私たちは違うから。彼らはそんな大きな罪を犯したのに、それを残さず済ませようとしているが、私たちは韓国政府に真実をはっきりさせてほしいのよ。私たちはわずかな金だけで退きたくないんだから。なんとか自分なりに証を残したいのよ。同じだよ、両方が名誉をかけて張り合っているようなもんだよ」

姜「韓国の若い学生たちがこのままで済むかよ。歴史に記録されるし続々と本が出ているのに」

李「そうだけど個人的には賠償してもらって余生を楽な思いして死にたいよ」

金「14~15歳の田舎娘が自分でそんな所へ行ったと思う? それなのに私たちが『慰労金』とかを少しでももらって済ませたら、結果的に私たちが後世からどう見られる? 売春婦にしかならないのよ。だからそうしたくないのよ」



http://doi-toshikuni.net/j/column/20151229.html

・筆者コメント
「お金を出すのが嫌だというわけではなく、過去の事を歴史に残さないようし、(名誉を傷つけず)きれいな国民でいたい」
 まったく驚くほどみごとな指摘である。筆者は以前は、日本政府はドケチだから戦後補償のパンドラの箱を開けたくなくて、ずっと戦後補償を拒否していたのだと考えていた。しかし、それは重大な間違いであった。最大の理由は、まぎれもなく「責任を認めたくない」ということ、そのことなのである。そのことを十全に理解せねばならない。
 ここで、姜徳景氏は「国」ではなく「国民」と言っている。これはあえてこういったのだろうか? 原語ではどうだったのだろうか?
 ちなみに、筆者の知る限りでは、「日本政府の法的責任より日本国民の方々の道義的責任のほうがありがたい」などと発言した被害者は1人もいなかった。

 ここで、筆者は、自身に以下の問いを問いかけ続ける決心である。だから、この記事をたまたま読んだ読者のかたがたにも呼びかけたい。

 「あなたは、「自分はきれいな(日本)国民でいたい」という思考と無縁だと、心の底から断言できるか? 彼女たちを”強姦”した日本兵の思考回路と、一切無縁だと心の底から断言できるか(筆者は内心の不気味なざわめきを抑えることができない)? そんな日本人(男性)は、存在しないのではないのか? そのことを自身の内面と行動に即して、明確に自覚することが、より深い被害者支援ではないだろうか?」


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 本書は姜徳景の伝記としてみるとき、いくつか不満がある。
1番目に、26名の元「慰安婦」が1994年2月7日に東京地方検察庁に「告訴状」を提出したこと(彼女は告訴人名簿の一番目に名前がある)が書かれていないこと。
2番目に、姜徳景氏が「国民基金反対運動に積極的に参加したこと(1996年に橋本首相に抗議の手紙を送ったりしている)が詳細に書かれていないこと。
3番目に、1993年2月に韓国で出版された証言集の中で、姜徳景氏が「私たちのような経験を二度とさせてはならないと思ったので証言しました。そしてどうせなら私たちががんばって、日本に謝罪賠償、すべて引き出せるものは引き出させなければなりません。」と発言していることの重大性である。これは、同証言集の金学順氏の発言「韓国政府日本政府も、死んでしまえばそれで終わりのような女の悲惨な人生には、何の関心もないのだろうと思ってしまうのです。」
と対比すると、一層重大であると思われる。こうなると、《責任者を処罰せよ―平和のために》《奪われた純潔》などの絵は、「加害の痕跡としての「日本」」から、「すべて引き出せるものは引き出させなければなりません。」という精神のもとで生まれたのではないかと思われるのである。

追記
 元戦犯・湯浅謙氏はこのようなことを発言したことがある。

(勝治)
 (中略)それで今回、証言収録の時に、「中国の人に対して今でも差別意識はありますか」と質問したのですけれども、湯浅さんは少し考えてから「ある」と答えられたんですよね。

(中略)

(司会)あのときに湯浅さんは、「皆さんにも差別意識はない? ない!? そんなにきれいなものかなぁ」と投げかけたんですね。その言葉には、今の日本社会の中には差別意識が厳然と残っているという前提があったと思いますね。



「証言―20世紀からの遺言~若者が問う侵略戦争」(2001年、湯浅謙・湯口知正・渡辺武利による証言、日本中国友好協会)


索引