『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

メモ 『推しの子』(赤坂アカ氏、横槍メンゴ氏の合作)から感じとる、あるグループの作家の想像力とその限界。

わたしは自分のことをいわゆる天才だと思うことは1年に4時間程度しか無いのだが、平気でべつべつのことを並べるというふしぎな才能がある。

いまから書くことは、記憶にもとづいてなのだが、ほぼ問題はないはずである。
『推しの子』の第3巻に、K氏という、人物理解が非常に優れている登場人物がでてくる。この人は、いわゆるプロファイルがかなりのレベルで可能で、かつそれを自分の演技におとしこむことができる。
わたしはこの能力を示す一連の場面をみたとき、「1990年ごろから山ほど描かれているいわゆる「恐るべき子どもたち」の一つだな」と思った(言い忘れたがK氏は20歳以下)。そして、「まだまだ未熟なんだが、わかっているのかな?」とも思った。「わかっているのかな?」というのは、読者もそうなのだが、赤坂アカ氏、横槍メンゴ氏、そしてこの2人が属しているグループの漫画家である。グループと言っても、別に正式会員になるための資格のようなものがあるわけではない。まあ、青年雑誌の漫画家グループという意味である。
わたしはさっき、「まだまだ未熟なんだが―」と書いた。わたしは当然、誰かとくらべて、こう書いているのである。誰か?

『子供を殺してくださいという親たち』の第7巻か第8巻に「最後の取引」という実録漫画が収録されている。
このなかで、主人公の立ち場のO氏が、ある老人(依頼者で、「病院への移送対象」の40代男性の母方祖母、現役の会社経営)に対して、「あなたがどういう人生を送ってきたのか、すべて話してください」と言う場面がある。実は、O氏がこういうことを依頼者(つまり「移送対象の親」)に言うことは、この漫画ではこの1回だけだ。なぜか。命の奪い合いか、命を掛け金にしたコミュニケ―ションまでおきる究極にこじれたグループは、それぞれが嘘を言ったりごまかしたりするのが当たり前で、O氏はそのことをよくわかっているからだ。第1巻第1話で、説得が仕事なのに「徹底的な事前調査が真髄」という発言の意味はこれである。
さて、赤坂アカ氏、横槍メンゴ氏の両氏が、こういう場面にたどりつくだろうか? 「フィクションとノンフィクションを混同するな」というのは、両方を舐め切った発言である。そういう人は自分の人生を安売りしているだけで、その発言にはひまつぶしていどの価値しかない。
私はべつに両氏の想像力を(両氏だけの想像力を)低く判断しているのではない。決定的に違う。取り扱う対象が似ているようで違っているから、ほぼ無理だと考えているのである。ただ、そこを両氏が正面からうけとめるかごまかすか、どっちなのかは興味がある。なにしろ、ごまかすこととりつくろうことは上手な人間はいやというほどいるから。


補足
たしか、保坂和志氏が書いていたことで、記憶で書くのだが、カフカを深刻にしか読まない人は、『審判』の草稿でヨーゼフKが机の紋章かなにかをけずりとろうという場面をカフカが書いたことの意味をちゃんと考えるべきだ、ということがあった。このメモをかきながら、そのことを思い出した。