『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

ふつうのくつや01 M軍 略あり

1916年
岩手県一関市に生まれる
1935年
中学校を卒業後、南満州鉄道に入社
1939年
満州国奉天軍官学校(中央訓練処)に入校
1940年
満州国軍 江上軍司令部に所属
1945年
終戦後、生活のため中国共産党軍に加わる
1946年
帰国
その後は、運転手や中国語教師などを務める



[1] チャプター1 中国語の習得 再生中05:06
Q:中学卒業したら満鉄に行こうと。
そうです。先輩がね、どこかいたんですよ。名前忘れましたけどね。その先輩がいたもんだから、まあ、行ってみようという気になってね、行ったんです。
営 口(現・遼寧省)の実習所にいるときに、実習として満州の質屋、これ話しましたね、この質屋に派遣されたことがあるんですよ。そこで1か月ぐらいいたかし らね。それで、質屋の業務を見てきたんだけれどね、そのときの給料というのは、そこで働いている店長よりも高いんだよね。これはおかしいですよね。店長よ りも高い、下の者が。本当におかしいと思ったね。
何であんな差別したのかね。だから、給料のもらい方が、日本人、朝鮮人でしょう、それに 中国人。あとはロシアとかね、蒙古とかね、そういうふうな順番ですよね。配給がすべて違うんですよ。ロシア人なんていうのは砂糖を欲しがるのね。あれは何 かコーヒーが飲みたがるんでしょう。砂糖をうんと欲しいんですよね。日本人は砂糖を自由にもらえたんです。と、ロシア人が来て譲ってくれとよく来たもので すよ。本当におかしい。
満州の質屋というのは日本と違うんですよ。質ダネ(質ぐさ)が馬だとか牛なんかがタネになった。そういう質屋がな いと、設備がないと、質入れできないでしょう。牛を持ってきて、羊なんかでもね。あんなこと、もうびっくりしましたけどね。日本ではあり得ないことですよ ね。殺して食ってもいいというならね、それはすぐできるんでしょうが、そうじゃなくて、牛を預けてお金を借りるんですからね。養うのは質屋側が養うわけで しょう。そういう人も雇っていなくちゃいけないし、そういう食べ物も買ってこなくちゃいけない。あれにはびっくりました。
Q:実習所も学費はかかるんですか?
いいえ、全部満鉄が払ってくれたんです。そうじゃなくちゃ行かれないです。
Q:だからこそ行くわけですね。
そうですよ。(営口商業実習所を)卒業して、それで中国語の通訳になったんだね。関東軍ですね。関東軍の最前線の通訳になったんです。
Q:学校で中国語をかなり話せるようになるんですか?
そうですね。もう普通の会話は全部できるようになりましたからね。
Q:今、覚えてらっしゃいます? どういう授業だったか。
何かしゃべりますか。何しゃべりましょう。
満州の国歌でもやりますか。
Q:国歌、お願いします。
「天地内有了新満州
満州便是新天地
頂天立地無苦無憂
造成我国家
只有親愛並無怨仇
人民三千万
人民三千万
縦加十倍也得自由 
重仁義尚禮讓
使我身修
家已齊國已治
此外何求
近之則與世界同化
遠之則與天地同流」
(天地の内に新満州はあり
満州はすなわち新天地なり
天を頂き地に立ちて苦なく憂いなし
ここにわが国家を建つ
ただ親愛あり、怨仇なし
人民は3,000万ありて
もし10倍を加うも、自由を得ん
仁義を重んじ、礼儀を貴びて
我が身をして修めば
家庭はすでに整い、国家もすでに治まった
他に何を求めることがあろうか
近くにあっては、世界と同化し
遠くにあっては、天地と同流せん)
これで終わり。
Q:すごいですね。
これ、満州国の国歌ですもの。
Q:どういう意味なんですか?
満 州国の国歌ですか。どういう意味って、「天地内」、天ですね、要するに地球上にという意味ですね。「有了新滿洲」、有ります、満州国という字ですね。「新 滿洲便是新天地」、すなわち新天地だと。新天地ですね。「有了新滿洲」。恨みとかそういうものがない自由の国だということですね。
[2] チャプター2 「匪賊(ひぞく)討伐」 02:38
Q:それじゃ、関東軍のその通訳になったのは20歳になる前なんですね?
そうですよ。
Q:じゃあ、軍属ですか?
軍属ですね。
Q:関東軍に、その通訳の班というのがあったんですね?
現地に、第一線に行っている人たちは(中国語が)全然分かんないんでしょう。日本から来た人が多いから。全然通じないわけですね。別に難しいあれじゃなくて、平常、行って、村の人に行って、いろいろ聞いたりするだけですからね。
Q:どういうこと聞くんですか?
そ うですね。普通のことですよね。とにかく分からないですね、相手が匪賊なのか、(中国共産党の)八路軍といいましたね、パーローというやつね、ああいう人 なのか分からないですよ。行けばみんな歓迎してくれますよ。ところが、行き過ぎると後ろからやれちゃうんですからね。おっかないんですよ、とにかくね。だ から何とかやっぱり、いろいろなことを聞いたりね。おまえ、名前何ていうんだとかね、子どもいるか、結婚しているとかしていないとか、そんな程度で聞いて ね、それとなく様子を探るわけですね。
とにかく、要するに敵兵がいるかいないか探すことですからね。要するに、敵と一斉に対峙して戦うという戦争じゃないですからね。相手が見えない、どこにいるか分からないですからね。そういう敵を探りながら行くんですからね。だから、いつ殺(や)られるか分かんないですね。
だ から、言われたのはオシッコをするな、ウンコをするなと。野戦で。うっかりすると撃たれちゃうんだよね。だから、友だちに守ってもらわなきゃね。やぶの中 に入って、やぶの中ってあれじゃないですね。まさか道路でけつひったくるわけにいかないから、陰に隠れますよね。それを守ってもらわないとやられちゃうん ですよね。おっかないんですよ。ウンコするんだっておっかなかったですよね。
Q:通訳は何人いるんですか?
私1人です。
Q:大変ですね。責任も大きいですね。
でも、分かんなくなれば分からないと言えるからいいですよね。まだ歩兵とかそういう、実習所卒業してまだ間がないですから、分かんないですよ、そんなにね。
[3] チャプター3 満州国軍 奉天軍官学校へ 02:22
満州国のほうの軍隊から募集があったんですね。向こうの軍隊にならないかというね。それで、それに応募したわけです。そしたらみんな出て、向こうの軍官学校に入ったんですね。士官学校ですか。それに入って、そこを卒業して、今度、部隊に配属ということになったわけです。
Q:軍官学校のときは、日系の生徒以外の満系とか鮮系という、ほかの・・
いましたよ。みんな一緒にやります。
Q:みんな一緒に。
一緒なんです。
Q:学校の授業の内容でも、匪賊討伐とかやったって。
そうです。それは実習としてね。実戦部隊の、普通の部隊は全部それをやるんですけれども、我々はその指揮をする、前に立つわけですからね。一応やっぱり、実際にやっている部隊に従軍して体験をする必要があったわけですね。ですから、随分怒られもしましたよね。
Q:怒られた?
ええ。怖いです。とにかく怖い。どこにいるか分からない敵ですからね。向こうに敵がいると分かっているなら用心もします、何もしますよ。でも、分からないです、どこにいるのかね。普通の人ですよね。後ろを向けばやられちゃうんだからね。そういうあれですから怖いですよね。
Q:その匪賊討伐とかそういう訓練もやって、犠牲者も出ますよね?
そ うですよ。でも、我々は実習生だからあんまり危険なところへ連れて行かないんですよね。だから、安全地帯ばっかり歩いているというような感じでしたね。本 当に挑戦を受けるということはなかったですね。だって、満州軍の部隊って、みんなそういう仕事、それが仕事でしたからね。だから実習生、軍官学校から士官 学校へ行く人を教育させるというためには、やっぱり安全にやらなくちゃいけないというあれがあるから、あんまり危険なところへ連れて行かないんですよね。
(略)