『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

実験

 秋も更ふけて、暁闇ぎょうあんがすぐに黄昏たそがれとなり、暮れてゆく年に憂愁をなげかけるころの、おだやかな、むしろ物さびしいある日、わたしはウェストミンスター寺院を逍遥しょうようして数時間すごしたことがある。悲しげな古い大伽藍だいがらんの荘厳そうごんさには、この季節の感覚になにかぴったりするものがあった。その入口を通ったとき、わたしは、昔の人の住む国に逆もどりし、過ぎ去った時代の闇やみのなかに身を没してゆくような気がした。
 わたしはウェストミンスター・スクールの中庭から入り、低い円天井の長い廊下を通って行ったが、そこは巨大な壁にあけられた円形の穴でかすかに一部分が明るくなっているだけなので、あたかも地下に潜ったような感じがした。この暗い廊下を通して廻廊が遠くに見え、聖堂守の老人の黒い衣をまとった姿が、うす暗い円天井の下に動き、近くの墓地からぬけ出してきた幽霊のように見えた。