『梶村秀樹著作集』完全復刊をめざす会・第6支部[ハンバンパク!!!]

名は体をあらわす。伝説の歴史家・梶村秀樹先生(1935年~1989年)の著作集の完全復刊をめざす会です。ほかにも臨時でいろいろ。

「つらい真実 虚構の特攻神話」(1983年、小沢郁郎、同成社)

関連記事:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20060914/p1


 上官が泣いて頼んで断れないようにした事例(P120)、部隊ほぼ全員の志願をタテに他の少数隊員に特攻を強要した事例(P125~126)、上官が「全員志願」するはずであり「志願」しないはずがないとみなして「指名」していく事例(P127)、海軍兵学校出身の特攻隊員が非常に少ないこと(P128~129)、隊長が高圧的に「志願」を強要した事例(P130)、真っ先に特攻志願したものの特攻前夜に激しい葛藤を同期生に一晩中語った事例(P149)、などなど多数の生々しい事例が挙げられている。
 ただし、P119で玉井浅一氏(二〇一航空隊副長)が最初の特攻隊員を募った時のことを「全員双手を挙げて賛成」した、としている。これは著者の小沢郁郎氏も疑問しているようで、この時は病室にいたはずの人物がいつのまにか「特攻隊員」になっていたことになっていた事例を挙げている。この時の様子については、「戦争証言アーカイブス」に収録されている井上武氏の証言が重要と思われる。(http://cgi2.nhk.or.jp/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001100786_00000


目次


まえがき  001
第一章 問題への視点……………………………………………………11
      特攻隊とは(011)/特攻隊の独自性(012)/讃美論批判(014)/奥宮論に対して(017)/軍人のウソ(021)/私の視点(024)

第二章 体当りの技術……………………………………………………29
   1 「神風《しんぷう》」が代表する飛行機………………………………29
      経過(037)
   2 人間爆弾「桜花」(別名「人雷」またはマルダイ) ………46
   3 「回天」――人間魚雷……………………………………52
   4 水上艇「震洋」(別名マルヨン、陸軍ではマルレ) ……………58
   5 技術の総括…………………………………………………61

第三章 犠牲と戦果………………………………………………………69
    1 使用資料について………………………………………69
    2 分母――犠牲………………………………………………76
      犠牲の内容(085)
    3 分子――戦果………………………………………………87
    4 評価と教訓と………………………………………………100

第四章 虚像と実態………………………………………………………109
    1 志願と強制と………………………………………………109
    2 海軍特攻隊(神風特攻隊)の場合……………………114
      大西滝治郎の役割(114)/特攻第一号(117)/関行男大尉(119)/下士官たち(122)/原則無視(123)/下士官の姿(124)/志願するもしないも(125)/特攻隊員は死ね(126)/上官の論理(126)/敗勢と腐敗(128)/上官荒廃(129)/これで志願!(131)/志願なき特攻隊(131)/戦果は不要(133)/予備士官あわれ(133)/憤激(134)/崩壊(135)/奥宮論再論(137)/異常のとき(138)
    3 陸軍特攻隊の場合…………………………………………140
      発起(140)/万朶隊結成(141)/当人が知らない志願(144)/佐々木友次伍長の生還(145)/みせしめ(147)/エリートも迷う(148)/陸軍予備学生(149)/参謀たち(150)/戦意低下(153)/陸軍特攻(155)
    4  「美談」の形成……………………………………………156

第五章 天皇制軍隊の腐敗……………………………………………167
    1 利敵行為……………………………………………………167
      利敵の徒(167)/第一話(169)/第二話(172)/比較(177)
    2 軍人勅諭の論理……………………………………………178
    3 ある「伝統」………………………………………………183
    4 外国の例……………………………………………………188
      少年十字軍(188)/イェリ・チェリ(189)/ベルリン防衛少年隊(191)

終章 つらい真実………………………………………………………197
あとがきに代えて  205

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引用

P002 



P032 「戦闘機操縦者戦力一覧表」(田形竹尾『飛燕対グラマン』より転載されたもの)、
    飛行時間100時間~300時間では「作戦任務につけない」とされている

P062 第二章註 (1)元鉾田爆撃隊長福島尚道氏は著者に直接教示された。「陸軍航空隊では、最後まで艦船用爆弾は開発できなかった。陸軍特攻隊の艦船攻撃には、ほとんど海軍用のものを使った。このことだけでも、陸軍で特攻隊を出したのはまちがいでした。」(昭和五十三年九月聞書)

P072~075 使用資料一覧

A 『神風特別攻撃隊』(猪口力平・中島正)「神風特別攻撃隊戦闘経過一覧表」「神風特別攻撃隊戦没者名簿」
B 「解説・神風特攻の発達と成果」(『証言記録――作戦の真相』(白井勝己)の中の富永謙吾氏の執筆分) 
C 『太平洋戦争』(新名丈夫)
D 『大東亜戦争全史』(服部卓四郎ら)
E 『太平洋戦争5』(みすず書房「現代史資料」より。編集責任者はBと同じ富永謙吾)
F 「神風特攻隊の成果」(昭和30年の『特集文芸春秋――日本陸海軍の総決算』の中の吉田俊雄氏の執筆分)
G 『南溟の果てに――神風特別攻撃隊かく戦えり』(安延多計夫)
H 『陸軍航空特別攻撃隊史』(生田惇)
I 「零戦隊の実力と戦歴」(秋本実)(『丸』322号、昭和48年)
J 「特攻機はなぜ生まれ、なぜ実施されたか」(寺岡謹平)(『丸』194号、昭和38年)
K 「きみよ別れをいうなかれ」(岩下泉蔵)(『太平洋戦争ドキュメンタリー』第1巻所収)
L United State Navel Chronology , World War 2. Washington; 1955
  →『第二次大戦海軍作戦年誌』
M U.S. Navy at War 1941~1945. Official Reports by Fleet Admiral Ernst J. King(いわゆる『キング元帥報告書』)
N 『ニミッツの太平洋海戦史』(ニミッツ・ポッター共著)
O 『特攻基地知覧』(高木俊朗)
P 『神風』上下(デニス=ウォーナー・ペギー=ウォーナー共著、妹尾作太男訳)
Q 『戦史叢書・比島捷号陸軍航空作戦』
R 『戦史叢書・沖縄方面海軍作戦』
S 『戦史叢書・海軍航空概史』
T 『海軍特別攻撃隊』(奥宮正武




P113 端的に言えば、軍上層部は「自発的に志願せよ」と命令できあたのである。自発性を強制えきたのである。ここに志願問題の鍵がある。

P115 源田実(軍令部作戦課)が起案した大海機密第261917番電報
P116~117中沢祐氏(昭和19年12月まで軍令部第一部長)と妹尾作太男氏とのやりとり。

P130 一度「諾」と言ってしまったら、公式記録に「志願」とされ、のがれるすべはない。形式をたてにとる悪徳業者か詐欺にひっかかるのと同様である。

P145~147 佐々木友次伍長の生還(145) 上のApeman氏の記事で取り上げられている事例。
      ちなみにここで名前が出てくる第八六飛行場大隊は後に住民虐殺に問われた藤兵団に所属していた。ここで紹介されている友清高志『ルソン死闘記』
と、同著者『狂気』に住民虐殺のことが書かれている。
関連資料:「資料紹介 日本軍の命令・電報に見るマニラ戦」のpdfファイル

P181~183 「特攻」が「天皇の軍隊」たる日本軍のみで行われたことを考えると、以下の指摘を無視した特攻論は重要な欠落があるというべきであろう。

 現人神である天皇に、まちがうということはありえない。だから「上官の命を承ることは実に直ちに朕が命を承る義なりと心えて」「死は鴻毛よりも軽しと覚悟」するのが、軍卒の最高の生き方となる。「世論に迷わず政治に関わらず只々一途に己の本分の忠節を守り」という指示まである。太平洋戦争期にとめどもなく表面化した日本軍の腐敗-政治的白痴化と民衆の無視、上官への盲従の強要、自他の人命の軽視は、ある日突然に起ったものではなく、憲法や法律以上の猛威を秘めていた「軍人勅諭」に内包されていたのである。
 敗戦まで、立派な軍人とは、天皇に忠節を尽す人を指した。「民族のため」「国民のため」は二義的な価値とされた。戦死者の最後の言葉は「天皇陛下万歳」と言ったことにされた。戦後になって、天皇のためにではなく、民族や国民や愛する人びとのために戦った面を強調する人が多いが、意識的な「天皇カクシ」にすぎない。軍人勅諭を正直にうけとめた素朴な将兵ほど、天皇のために朧ったのである。戦争中の軍人が呪文のように唱えたのが「悠久の大義」に殉ずるという文句であったが、この「大義」の中心は天皇以外のなにものでもありえなかった。
 特攻隊員の遺書の多くも「天皇」「皇国」「神国」「悠久の大義」 のために死ぬと言っている。戦後になって、特攻隊員が、国家や国民や民族のために献身したことを、天皇という目標よりも強調するものが多いが、戦後にも公認の価値観を(天皇信仰では具合がわるいので) 一階級昇進させたのである。が、その場合、国家も国民も民族も、戦後の概念でのそれなのではなく、「天皇が唯一最高の主権者である国家・国民・民族」の意味であったことを忘れてはならない。
 軍人勅諭の五つの徳目は、武人として望ましいものであった。いまとなってはうとましい「忠節」もふくめて、徳目に忠実な軍人は、好ましい人たちであった。愚直であろうと、私心のすくない、澄んだ人たちであった。が、その見事さは、天皇制日本、天皇制軍隊での価値を超えうるものではありえなかった。自由な、人命と人権を尊重する社会にまで大手をふって通用できる立派さてはなかった。
 そして、敗戦期の軍人には、軍人勅諭の一徳目さえ守らぬ手合が多かった。とくに佐官以上の上級者には多すぎた。










索引
P048 野中五郎
P054 横田寛 
P106 美濃部正 
P120 小野田政
P124 角田和男
P123 美濃部正 門司親徳大尉
P132 笠井智一
P145 友清高志『ルソン死闘記』
P152 横田本(先任将校が横田寛氏や回天の故障で帰還した池渕中尉を罵倒した事件を引用している)
P196 金一勉『天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦』 熊井敏美『フィリピンの血と涙』


補足:読んでみたが、NHKスペシャル日本海軍 400時間の証言> 第二回「特攻 “やましき沈黙”」で特攻を推進した人物の1人として挙げられている黒島亀人の名は本書にはない。


※本記事は「s3731127306の資料室」2013年06月05日作成記事を転載したものです。